君は飛火野耀(とびひの あきら)を知っているか 第4回『UFOと猫とゲームの規則』

〈君は飛火野耀(とびひの あきら)を知っているか 第3回 もうひとつの夏へ〉

『UFOと猫とゲームの規則』は1991年に角川スニーカー文庫から発売された異世界冒険ファンタジー小説。

異世界の冒険といえば、古くは『不思議の国のアリス』を始め、古今東西様々なものが挙げられます。

時にそれは「幻想文学」とも呼ばれ、若い読書家を中心に非常に人気のあるジャンル。(広義な意味で捉えると、昨今のラノベの大半はこのジャンルに相当するようです。)

この『UFOと猫とゲームの規則』も“異世界の冒険物語”としては確かにその類ではあるのですが、しかしながらその内容は実に奥深く、単に「幻想文学」という枠に収まらないような独特な魅力にあふれています。

早速この小説について、3つのポイントで紹介していきたいと思います。

1:想像の上をゆく、怒涛のイマジネーション

浪人生の「僕」は事故を機に異世界に飛ばされ、そこ出会った男性にあるミッションを託されます。

そのミッションとは『病気の大統領に自分の心臓を届けてほしい』というもの。

実に不気味でシュールな使命。でも不気味なのはそのミッションのみならず、この異世界そのものが禍々しさに満ちた不気味でシュールな世界。

時間や空間はことごとく意味を持たず、物質と生命の境界も極めて曖昧。もはや「なんでもあり」といったイマジネーションがこれでもかと展開されます。

上空では太陽が3つ、お互いのまわりを回りながら、空のてっぺんへとのぼってゆき、それからまた反対側の地平線へと沈み始めた。中略)…どうやらこの世界では、時間というものはあってないようなもので、いくらでも伸び縮みするものらしかった。

…彼女は裸の腕を僕の首に巻き付けた。突然僕はこの女が、見た目の美しさとはまるで別の、何かおぞましい種類の生き物であるかのような気がして、全身に鳥肌が立った。(中略)女は両手で 僕の首をはさみつけると、無理矢理に唇を押し付けてきた。ぐにゃりと柔らかくて生あたたかいものが僕の唇に押しあてられ、それが生き物のように唇のあいだに忍びこんできて、あっと声をあげる間もなく、のどの奥へと入り込んだ。

『イース 失われた王国』で魅せた筆力はここでも健在。まるで本を持つ手から神経を伝わって心に入り込んでくるかのようなリアリティに、身も心も持っていかれそうになります。

全編を通して空想の翼を全開に広げたようなイメージの洪水。『不思議な世界』『異世界』『幻想ファンタジー』といったキーワードにビビッと来る方にはたまらないのではないでしょうか。

2:幻想世界だけど、“地に足のついた”安心感

何でもありの世界、立て続けに展開されるシュールなイメージ…、と聞けばなにやら普通の感覚ではついていけない作品だと想像されるかもしれません。

実際、こうした幻想小説の中にはイメージに偏りすぎて地に足のつかない状態に陥ってしまっているのも少なくないようです。才覚が先に行きすぎて読者をおいてけぼりにしているというか…。

しかし、この『UFOと猫とゲームの規則』に至っては決して幻想イメージに浮遊することはなく、しっかりと地に足のついた物語構成に終着します。

なぜ異世界に飛ばされたのか、なぜこの異様なミッションを遂げなければならないのかといった設定はもちろん、そもそもこの物語自体がなぜ「幻想文学」的なのかといったところまで、最終的に見事に説明がなされる、その種明かしは気持ちの良いほど鮮やか。

結果としてかなりぶっ飛んだ物語でありながら読後感は心地よく、落ち着いた満足感を味わう事ができます。

3:根底に横たわる深い人情

この物語には主人公と行動を共にする二人の魂があります。

夢みがちな女子高生と接客商売が板についた中年男性。二人とも現世で憂き目にあい自ら命を絶った後、この世界に召喚されてきた人物。

事情は大きく異なりますが二人とも心に大きな傷を負っており、時折垣間見られる人生の寂しさ切なさが、殺伐としたトーンの異世界に情感をもたらせます。

また物語がすすむにつれて登場する、妙に世話焼きな『風の丘の魔女』や、助平おやじを絵に描いたようなこの世界の住人『陳さん』等、人間味まる出しの登場人物も脇を支え、徐々に幻想空間らしからぬ人情の芯が備わってきます。

そして最終的には、この作品全体が人間社会に対する愛情にあふれていることに最後の最後で気づかされる展開となっており、読み始めと読み終わりが全く違った印象。

一件、幻想ファンタジーでありながら、ゆるぎない骨格があり、人のぬくもりがあり、慈愛に満ちた種明かしがある。 しかもその作風はどこかさらさらと書き流した風もあり、ただならぬ品格。

これほどの作品を世に残した飛火野耀氏、いったい何者なのか??

いや、やはりプロフィールを読んでも全く謎なまま…。 (作を追う程どんどん意味不明になっており、もはや痛快ですらあります。)

まとめ

結論から言ってこの小説、ものすごく面白いです。

こんなに面白いのに、あまり知られていないのが不思議な感じ。

幻想ファンタジーに興味のある方はもちろん、アニメやゲーム・漫画などの創作コンテンツが好きな方は是非おすすめですです。

きっと心に残る体験として存分に楽しめるのではないでしょうか。

本書は既に絶版しておりやや価値が上がっていますが、それほど入手困難というわけではありません。

◇UFOと猫とゲームの規則
◇飛火野耀(著)
◇1991年
◇角川スニーカー文庫
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さて、次回第4回は衝撃的名著「イース 失われた王国」の続編「イース2 異界からの挑戦」に迫ります。

〈きみは飛火野耀(とびひの あきら)を知っているか 第5回『イース2 異界からの挑戦』〉

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