超簡単に説明!小説「マチネの終わりに」3つの魅力
2019年11月1日に公開予定の映画「マチネの終わりに」。
福山雅治さんと石田ゆり子さんのダブル主演、この秋注目の作品です。

この映画の公開に先駆けて、原作の小説「マチネの終わりに」のすばらしさが分かる3つの魅力を「誰でもわかる形で」簡単にお伝えしたいと思います。
魅力1:清く正しく美しい人たち
この物語は一組の男女の恋愛を描いておりますが、この二人が実に魅力的な人物。
主人公の蒔野聡史は世界的な名声を持つ天才クラシックギタリスト。

「天才音楽家」 と聞くと気難しくプライドが高い男を想像されるかもしれませんが、決してそんなことはありません。むしろ逆。
というのも彼、あまりの天才であるがゆえ、周囲から孤立しないよう敢えて「親しみやすさ」を獲得してきた男。
なので基本謙虚、そして実に好人物。
易~い表現をするならば、メチャクチャ天才なのにメチャクチャいい奴。

そしてもう一人の主人公、小峰洋子は旧ユーゴスラヴィアの天才映画監督を父に持ち、英・仏・独からラテン語まで操る国際ジャーナリスト。
その容姿は「通行人が、前を過ぎ様につと視線を向けずにはいられないような存在感。」
まさに非の打ちどころのない「うつくしい人」。

ところが、四十路を迎え、アメリカ人経済学者との結婚を目前とした中で、イラクでテロに巻き込まれるというとんでもないハプニングに逢い、心の均衡が崩れつつある状態に。
全て兼ね備えているのに、どこか揺れている女。

二人とも、実に人が羨むようなハイスペックな性質を持ちながら、内面はとてもウエット。
何より善良で真面目。
つい応援をしたくなるような二人なのです。
さらに彼らの脇を固める周囲の登場人物も、みなどこか地に足の着いた、情と理性を備えた人たちばかり。
「よき人たち」で紡ぎだされる世界は非常に高潔で、時に残酷。いったんその世界に足を踏み入れると、心が気高い風に吹き清められてゆくかのようで、いつまでもその地に居続けたくなります。
魅力2:清純な恋・哀・物語
作品はこの二人の恋愛を出会いから丹念に辿ってゆきますが、その過程が実に清純!
ネタバレ覚悟でお伝えしますと、この二人、出会ってすぐに惹かれ合いますが、どういうわけか二人の社会的立場やら状況やらが二人を引き離そうとばかりします。
でもなまじっか心優しく聡い大人の二人、感情的な勢いに任せて…という野暮なことは一切いたしません。
結果、二人とも表に出せない想いを抱えたまま、地球の真反対という物理的に最大の距離に引き離されてしまいます。

全編を通してこの二人、とてつもなく遠く離れた距離の中で、お互いの純真な憧れを抱えたような状態となってしまうのです。
その純度はあまりにも透明度の高い泉であるかのよう。
ひとたび身を浸せば、体の中から不純物がゆっくりと剥離してゆくかのような恍惚に、身も心も委ねきりになってしまいます。

魅力3:声に出して読みたくなる!静謐な文章
この作品の作者は平野啓一郎さん。
1999年、当時芥川賞の最年少記録を樹立し話題となりました。その後も『決壊』『ドーン』『ある男』と言った話題作を次々に発表している気鋭の作家です。

平野啓一郎さんの文章はとても素晴らしく、分かりにくい状態や説明しようがない感情などを短いセンテンスでピタリ、ピタリと言い当てて行きます。例えば、
―洋子は自分が、バランスを崩しつつあること自覚した。支えきれないほど大きなトレイを持たされて、そこに載せられた幾つもの球を安定させようと腐心しているかのようだった―
といったような表現には、思わずため息がこぼれそう。

ギターの演奏表現も、
―楽曲の全体が、星空のように広大に、はるかに見渡されて、しかも旋律は、星座のように整然と結び合い、決して見失われることがなかった。
等々、まるで活字の隙間から音階がこぼれだしてきそうな迫力。
一行一行が優美で風雅、うっとりとする静謐さ。
永久に文字を追い続けたくなる衝動にかられます。

まとめ
魅力的な登場人物、魅力的なストーリー、そせてそれを綴る魅力的な文章。
魅力に満ちた現代文学の真骨頂『マチネの終わりに』。
その作品世界はいつまでも浸っていたくなるような芳香に満ちております。
実際 新聞で連載していたものが終了した後には「マチネロス 」が続出したとのこと。

読む人を魅了し、耽溺させてしまう作品。
この作品世界がどのような映像で表現されることになるのでしょうか。
映画の公開は2019年11月1日。今から楽しみです。
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